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【川村エッセー:ときわぎ】微生物の狩人

2009年06月09日(火)

豚から感染したという新型インフルエンザは、未だに世間の大きな話題となっている。BSEしかり、どうも今日では人獣共通感染症が大きな問題となりつつあるようである。遺伝子工学の進歩による組み換え家畜の増加などにより、新たな病原体が今後は出現する可能性はあるだろう。

今日の我々の寿命が延びたのは、微生物学の研究による病原体の研究、抗生剤の発見によるとこるが大きい。しかしながら、感染症は未だ完全に制圧できず、おそらく人類が続く限り永遠に続く問題であろう。整形外科領域では、手術後の感染症が一番問題となるが、これを完全に防ぐことはできない。手術部位の清潔操作はもとより、十分な洗浄、手袋の交換、抗生剤の適切な使用など工夫を積み重ねた結果、以前より格段に感染症は減少したが、忘れた頃にやってくるものである。

微生物の狩人

私の手元には、感染症の治療において、原点とも言える本がある。それは「微生物の狩人」(岩波文庫、ポール・ド・クライフ著、秋元寿恵夫訳)である。医学生時代に細菌学の先生から薦められた本で、高校生でも読める本である。感染症に興味のある方は一読をすすめる。20世紀の医学は、病原体発見の歴史であった。顕微鏡で微生物を発見した17世紀のオランダ人、レーヴェンフックから始まり、パスツールとコッホにより、微生物が病気と深いかかわりを持つことが証明され、人類の病気の多くには微生物が関与するとの考えが普及した。その後、抗生剤の発見が加わり、「薬によって病因を退治する」という、20世紀医学の基本概念が確立した。この本は数々の病原体の発見、ワクチンや治療薬の開発などを通じて社会に大きく貢献した微生物学者達の伝記を綴っている。地図のない道を孤独に歩み、大きな仕事を成し遂げた人間たちの生き様を知ることが出来る。

彼ら「微生物の狩人」たちのお陰で今の私たちがある。そして時代は変わり、新型インフルエンザウイルスなど、新たな脅威が人類に立ちはだかっている。感染症との戦いは、今後も続くであろうが、決してひるむことなく、冷静に対策を練らなくてはならない。人類の存続のため、現代の「微生物・ウイルスの狩人」達による新型病原体の狩りは、日夜続いている。

北海道新聞 エッセー:ときわぎ 2009年6月9日掲載

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