トップ  »  おしらせ  »  整形外科よりお知らせ  »  【川村エッセー:ときわぎ】2001年9月11日

【川村エッセー:ときわぎ】2001年9月11日

2009年09月29日(火)

アメリカ同時多発テロ事件が起こったこの日は、私にとっても忘れられない一日である。その日は仕事で網走にいたが、夜ラーメンをすすっていた時、テレビの緊急ニュースでマンハッタン島にあるワールドトレードセンタービルに、2機の旅客機が突撃する映像が流れていた。まさかと思ったのは、私は10月から同じマンハッタン島にある病院に留学することが決まっていたからである。これでは留学はとても無理だなと思っていたら、なんとか1ヵ月遅れで就学ビザが発給され、留学生活が始まった。

どうにか留学のスタートは切ったが、スポーツ医学研究室においても話題はテロのことが多かった。テレビニュースはテロ組織であるアルカイダの犯行であると報道し、これは米国に対する真珠湾攻撃以来の武力攻撃であると、盛んに日本軍の真珠湾攻撃の映像を流していた。私の在籍した研究室は、多国籍のスタッフからなり、中には中国人、韓国人もいたので、戦争の映像が流れる度に気まずい雰囲気になった。

2001年9月11日

研究室で日本人は私1人であり、戦争の話になるとどうも立場が悪く、甚大な被害を与えたことに対し申し訳ありませんでした、と謝罪ばかりしていた。海外で日本人はこれほど悪く見られていたのかと落ち込んでいたが、助け舟を出してくれたインド出身の研究者がいた。彼は、「物理学者のアインシュタインは、日本人は控えめで、勤勉で、礼儀正しく、先祖を敬い、和を尊ぶ立派な民族である、と言ったのだよ」、と慰めてくれた。実際、仕事が始まると私は早朝から深夜まで、休むことなく働いたため、やはり日本人は大変勤勉であると評価してくれた。

テロリストに説教をしても意味がないかもしれないが、日本には西郷隆盛が残した「敬天愛人」という世界に誇れる思想があると思う。天を敬い、人を愛する。すなわち、人間として正しいことを貫くこと、己の欲や私心をなくし、人を思いやる「利他」の心をもって生きるべしという教えである。アメリカ流の市場原理主義の導入は、日本人にはなじまず、医療も含めて地域の崩壊をもたらしたとの見方はある。もっと色々な日本らしさを、自信を持って大切にできればと思う。
 

北海道新聞 エッセー:ときわぎ 2009年9月29日掲載

このページの先頭へ

外来受診される方 入院患者さま・ご家族 お見舞いの方 検診を受けたい方

小林病院