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【川村エッセー:ときわぎ】こころの癒し

2010年04月17日(土)

日頃、外来、病棟、手術と数多くの患者さんと向き合い、診療をさせて頂いているが、疲れや対人関係のストレスなどで、気持ちが落ち込むことがある。そんな時私は、職場近くのおそば屋さんに逃げ込む。そこで大好きなそばを存分に頂くことが、秘かな私のこころの癒しである。

私のそば好きは子供の頃からであるが、偶然にも進学した大学はそばで有名な信州の松本市にあり、学生時代にはよくそばを食べに行ったものである。ぜいたくはできなかったので、もっぱら利用したのは駅前にある「飯田屋」という立ち食いそば屋であり、アルバイトの帰りに立ち寄って食べる、350円の天ぷらそばが大好きであった。信州のそばは各地で特色があったが、とりわけおいしかったのは、大学のドイツ語教師が教えてくれた、戸隠(とがくし)高原のそばであった。特に新そばの時期には、今まで経験したことのない極上のそばを堪能できた。また印象深いのは信州上田市にある「刀屋」で、池波正太郎氏も絶賛した店であるが、並のもりそばでも、びっくりするほど山盛りになって出てきた。味も一流の手打ちそばであった。

蕎麦

仕事の帰り道、本屋さんにぶらりと立ち寄り、何気なく本棚をながめると、池波正太郎氏の本、「散歩のとき何か食べたくなって」を見つけた。その本では、池波氏が大好きな食事処を紹介しており、信州のページでは懐かしく読み入った。この本は、「食べる」ことを取り上げたエッセーであるが、時代の流れの中にあっても、昔ながらの流儀を守り抜き、かわることのない味を提供してくれる店を題材にしている。その本の中には、私が学生時代には存在していた店がいくつも載っていた。中華料理「竹乃家」を気になって調べてみると、数年前に閉店していたことが分かった。もう二度と、あの店の中華そばを味わうことができないことは、大変残念である。「刀屋」は、今でも昔のままで営業しているようで安心した。思い出の味を求め、早めにまた訪れたいと思っている。

北見市内でも、伝統を受け継ぎ、何代も変わらぬ味を提供し続けているおそば屋さんがある。変わらぬ味は、人々の記憶に懐かしい思い出として生き続ける。しばらくぶりに行っても、ああこの味だ、と確認できることは、過ぎ去った昔を思い起こせる瞬間でもある。昔ながらの流儀を守り抜くことは、大変な苦労を伴うであろうが、職人芸をいつまでも絶やすことなく、私たちにこころの癒しを与え続けて欲しいものである。

北海道新聞 エッセー:ときわぎ 2010年4月17日掲載

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