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変形性関節症の基礎

はじめに

変形性関節症は、関節を破壊し機能障害をきたします。関節リウマチとは、その病態が異なります。本編では変形性関節症を、構造的また症候的視点から解説し、病理所見、発生頻度、社会経済に及ぼす影響、リスクファクターなどにも言及いたします。また関節軟骨障害を予防する薬などについても解説します。

社会経済的影響

変形性関節症は、重要な社会経済的問題なっております。

高齢者において、活動性を低下させ、生活の質を悪化させる要因のひとつとなっております。1990年には、全米で2700万人の変形性関節症患者がいると言われておりましたが、2020年には、4700万人に増加するといわれております。この傾向は日本も同様であると推察されます。

変形性関節症のために仕事ができないための損失、あるいは医療費を合わせると国民総生産の1%に匹敵すると見積もられています。

変形性関節症の定義

関節の変性疾患であり、関節軟骨の損失と広範な骨変化を特徴とします。最終的には関節全体の構造に変化を与えます。変形した関節に対しては手術治療も考慮されます。

●構造面から見た変形性関節症
構造の観点からすると、変形性関節症は、荷重部における局所の関節軟骨の損失と骨棘などの骨の変化を特色とします。X線撮影はこのような変化を最も簡便に検出できます。X線では骨の変化しか見ることができないので、軟骨の画像診断としてはMRIが有効です。ガドリニウム造影MRIを用いると軟骨成分(グルコサミノグリカン)の含量を推定することも可能です。

●症状としての変形性関節症
関節の痛み、腫れ、水腫、関節運動に伴う異常音、変形などが見られます。変形性関節症とその他の原因による関節症を鑑別する必要があります。

変形性関節症の発生頻度

変形性関節症はすべての関節に発生する可能性があります。頻度的には、指のDIP関節(図1)、母指のCM関節、足のMTP関節、頚椎、腰椎の椎間関節、膝、股関節に多く見られます。

どの程度の変形性関節症を含めるか否かにより異なりますが、一般的に34歳~44歳までの男女の10~15%が変形性関節症を有しており、65歳~74歳の50%がなんらかの症状がある変形性関節症があると考えられています。変形性関節症といえる関節の構造的変化は70歳を過ぎるとほぼ必発と考えられます。

手や膝のX線写真を撮ると、60歳以上の30%に変化が見られますが、そのうち症状を有する人は50~60%に過ぎません。著しく高齢な方においては、意外と変形性関節症の症状がでないこともあります。

変形性関節症発生の危険因子

●年齢と性別
膝と手の変形性関節症は50歳以降の女性に多いと言われております。男性は50歳以降、変形性股関節症が多いとされております。

●人種
アジア人の女性は、アメリカ白人より変形性膝関節症の頻度が高い傾向にあります。

●内分泌
関係はあると推測されますが、はっきりとした根拠はありません。

●遺伝
変形性関節症の発生に関係あると言われております。家族に変形性股関節症を有する場合、他とくらべて3倍の頻度で変形性股関節症が発生しやすいことが分かっています。膝関節はやや遺伝傾向が低いと考えられます。ビタミンDレセプターの変異、エストロゲンレセプター1の変異、IL-1の多型、matrilin 3, frizzled-related protein 3, asporin, BMP-5なども変形性関節症と関係が示唆されています。BMP-2, thrombospondin, collagen receptor, COX-2などは変形性関節症の発生に関与していると考えられ、またosteoprotegerin, tetranectinなどは変形関節症の進行に関与していると考えられています。

●関節の外傷
足関節は、外傷後急速に変形性関節症に移行することが知られています。

●股関節形成不全
関節の接触面積低下に伴うストレスの増加、軟骨破壊の進行が見られます。

●膝の変型、不安定性
内反(図2)、外反変形は変形性関節症の原因となります。

●筋力低下
大腿四頭筋の筋力低下と変形性膝関節症の発生に関連があります。

変形性関節症の痛みの原因

関節包、靭帯、滑膜、骨膜、軟骨下骨には、神経支配があり痛みを感じます。特に変形性関節症においては、骨膜、軟骨下骨が障害を受けると痛みを感じると言われています。

変形性関節症の病理

関節軟骨の磨耗、わずかな修復、軟骨下骨の肥厚、骨のう胞形成、滑膜、関節包の肥厚、骨棘の形成などが特徴的です。このような関節の変化は、加齢現象に伴い多くの関節で見られますが、症状を発現することは少ないです。

●関節軟骨
変形性関節症の発現は、表面に存在するtangential zoneの破壊から始まります。続いてコラーゲン配列が乱れ、プロテオグリカンが溶け出します。代償性にプロテオグリカンの合成が高まります。結果的に、軟骨と垂直方向のコラーゲン線維のみが残るようになります。いわゆる軟骨の線維化現象です。軟骨変性は通常ゆっくりと進行します。年齢とともに軟骨は変性しますが、これが変形性関節症とはイコールにはなりません。

●滑膜、関節包
変形性関節症の初期において、滑膜には軽度の炎症性変化が見られます。炎症性のサイトカインが、軟骨変性に影響を及ぼしている可能性があります。変形性関節症の進行と平行して、滑膜、関節包の炎症は進行、痛みの原因となり得ます。関節液に含まれる、IL-1β, TNF-αはどちらも変形性関節症末期に多く含まれています。IL-1β, TNF-αは、変性した軟骨細胞や滑膜から産生されMMPやNOS, COX-2を生成させます。

●骨、骨棘
変形性関節症における骨の変化は必発であり、軟骨変性が先か、骨の変化が先か意見が分かれています。軟骨下骨は変形性関節症の進展に呼応して肥厚し、骨のう胞を形成することもあります。骨棘は、滑膜の付着部より発生し、骨膜や滑膜に存在する未分化な細胞から由来します。関節液に存在する、成長因子(IGF-1, BMP, TGF-β)が必要となります。

変形性関節症の分子生物学

変形性関節症では、軟骨細胞の増加、細胞死、細胞の形質変化が起こります。初期には、軟骨表面の細胞がわずかに死滅し、末期には軟骨損傷部に限局した軟骨細胞塊が見られます。

変形性関節症の軟骨は機械的特性も変化します。一般に、より柔らかくなり、表面がけばだちます。軟骨内のプロテオグリカン濃度が減少することは、軟骨内部における水分の増加につながり、また表面に微細な穴が開くことにより、加重時に軟骨内から水が流失します。すなわち加重時に軟骨は扁平化し、結果軟骨成分がさらに障害されます。変形関節症の初期には、軟骨代謝は合成に傾きますが、末期には分解が優位となります。軟骨変性のマーカーとしてcartilage oligomeric proteinが注目されています。軟骨変性の分子生物学は、まず軟骨表面のコラーゲン架橋が破壊され、水分が軟骨内に3~6%増加します。

MMP-1, MMP-8, MMP-13, MMP-14はそれぞれコラーゲンを分解する酵素ですが、軟骨に存在するタイプIIコラーゲンの分解能はMMP-13が最も高いです。変性したコラーゲンは様々な酵素で分解されますが、MMP-2, MMP-3, MMP-9などがあげられます。

変形性関節症では、アグリカンの分解が目立ちますが、ADAMTS-4, ADAMTS-5が関与していると考えられております(図3)。

変形性関節症の薬物療法

●ヒアルロン酸
長鎖アミノ糖であり、分子量が大きく関節液に粘調性を与えています。変形性関節症ではRAほどにはヒアルロン酸は減少しません。滑膜においてヒアルロン酸は、CD44を介して生理活性を示しています。変形性関節症における効果については議論がなされていますが、軽度の変形性関節症には効果がある可能性があります。

●グルコサミン
軟骨成分のアグリカンを構成する、コンドロイチン硫酸、ケラタン硫酸の合成に必要です。変形性関節症患者の50~60%に有効であったという報告もありますが、議論のあるところです。経口投与されたグルコサミンが、関節に到達する濃度はかなり低いと考えられています。修復中の組織にグルコサミンは必要とされますが、腸管の組織(リンパろ胞など)に主に作用すると考えられています。

●コンドロイチン硫酸
生体内における薬理作用につては不明です。実験では各種MMPの効果を抑制するとの報告があり変形性関節症に有効な可能性はあります。しかし、陰性に荷電し腸管からわずかしか吸収されないのが問題です。

●COX阻害薬
COX-2は、変形性関節症において傷害された組織に発現する酵素です。選択的COX-2阻害薬は、消化管障害が少ないことから広く使用されています。損傷された関節ではプロスタグランディンE2の産生が亢進しますが、これは発現内容により関節を破壊あるいは保護に働きます。変形性関節症ではRAと異なり、炎症反応自体はそれほど大きくはありません。COX-2阻害薬を長期間使用することによる脳梗塞、心疾患の可能性にも注意が必要です。

COX-3は主に脳内で発現され、これにはアセトアミノフェンが効果あると考えられています。それゆえ変形性関節症の第一選択薬としてアセトアミノフェンが挙げられます。

 

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