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関節リウマチの基礎と臨床

はじめに

関節リウマチ(以下RA)は、炎症性関節疾患の代表で、進行性であり全身の関節を破壊する病気です。RAでは、関節の滑膜に白血球が浸潤し、滑膜に過形成が生じ、関節軟骨ならびに骨を侵食します。

RAの関節破壊は激痛を伴い、関節の変形をきたします。RAは全人口の約1%を占めると言われております。また変形性関節症同様、社会経済的影響が大きい疾患です。RAは生活の質を落とし、余命を短くします。RAにかかる費用は、国民総生産の約1%に及ぶと言われております。

RAの自己免疫疾患としての特性は、RA患者の約80%に検出されるリウマチ因子(RF)、すなわち抗免疫グロブリンG抗体、により弱められています。RAには遺伝が関与していると考えられており、組織適合性抗原であるHLA-DR4やHLA-DR1がRA患者に高率発現します。
非リウマチ性関節炎、例えば強直性脊椎炎、乾癬性関節炎、炎症性腸疾患、ループス関連性疾患、反応性関節炎(ライター病、ライム病)などはRAとRF(-)の点で鑑別されます。また臨床症状がゆっくりと進行し、HLA-B27が陽性である点でも鑑別されます。

臨床症状

RAは女性が男性より3倍多く発症します。また好発年齢は40~50歳代で、20~60歳代の患者がほとんどを占めます。

通常RAの発症は、指、手関節、足関節などの小さな関節から始まります。RAの進行に伴い、膝(ひざ)、肘(ひじ)、肩(かた)関節も罹患するようになり、通常両側性です。変形性関節症との違いは、RAでは通常、遠位指節間関節は罹患しません。脊椎の病変は、上位頚椎に発生することが多いです。

X線写真の特徴は、関節の裂隙が狭くなる(軟骨の損失のため)、手足の関節の変形(尺側偏位)(図1)、骨びらん、骨のう胞(図2)などです。変形性関節症でよく見ることがある骨棘、骨硬化はRAでは通常見られません。

病理学的には、滑膜に著しい白血球(単核球)の集積を血管周囲に見ます。Bリンパ球の集積は、リンパ濾胞を形成し、リンパ節類似の構造をとります。滑膜の肥厚と血管増勢がRAの特徴です。関節腔内に絨毛状の滑膜が突出するようになります。RAの滑膜より出たパンヌスは、関節を破壊します。パンヌスに含まれる線維芽細胞は、形質が変化し、自由に増殖することができます。

RAの関節液は、白血球が大量の混ざっているため濁っています。また正常な関節液は、粘ちょう性が高いのですがRAではさらさらな関節液となり、関節軟骨の破壊を進行させます。RA患者では、発症から2年以内に70%以上の患者で軟骨損失、骨びらんが観察されます。RAによる軟骨破壊は、軟骨に対する直接的なパンヌスの浸潤と炎症細胞より分泌された蛋白分解酵素により引き起こされます。RAによる骨破壊は、破骨細胞により起こります。

RAの発症のメカニズム

現在のRA発生のメカニズムには様々な免疫系が関与していると言われております。

■後天的免疫システム:Tリンパ球、Bリンパ球、抗原提示細胞

RA滑膜の特徴は、Tリンパ球の集積です。その大部分はヘルパーT細胞です。Tリンパ球に抗原を提示する細胞は、マクロファージ、Bリンパ球、樹状細胞があります。主要組織適合性抗原のうちHLA-DRB*0401, DRB*0404, DRB*0101を発現する遺伝子は、RA患者に高率に出現すると言われております。RA患者のTリンパ球を活性化する抗原として、タイプ2コラーゲン、アグリカン、gp39などの関与が言われておりますが、まだ特定のものは見つかっておりません。

Tリンパ球は様々なシグナルにより活性化されます。T-cell receptor/CD3複合体はそのひとつです。この刺激は、CD28, CD152, CD154, CD40などがTリンパ球の活性化に重要です。CD154はRAで増加しており、病気の活動性と相関しております。パンヌスにはTリンパ球がないことが分かっています。このことから、Tリンパ球の役割は、滑膜炎症の調整する役割が示唆されております。

活性化されたTリンパ球は、様々はサイトカイン(ケモカイン)を産生します。Tリンパ球から産生されるインターフェロンγ(IFN-γ)は、滑膜細胞、軟骨細胞に働いて主要組織適合性抗原のタイプ1、タイプ2の発現を亢進させます。IL-2は、Tリンパ球、Bリンパ球を増やします。Bリンパ球もRA滑膜では増加します。その他の炎症反応を惹起する因子として、IL-17, IL-18などがあります。また炎症反応を抑制する因子として、IL-4, IL-10がありますが、RAではこれらの抗炎症性のサイトカインは相対的に抑制されています。

Bリンパ球は、リウマチ因子(RF)を産生します。RFは自己の免疫グロブリンに対する抗体で、関節液などで免疫グロブリン複合体を形成し、RAの関節破壊を進行させます。

■生来の免疫システム:顆粒球、マクロファージなど

白血球(顆粒球)はRA滑膜の大部分を占めます。好中球は、RA関節液に最も多く含まれる細胞成分です。IL-8やLTB4といったケモカインは、血中の好中球を関節中に引き込みます。好中球が関節腔内に入ると、これらの細胞は免疫複合体により活性化され、ケモカイン。サイトカインを分泌するようになります。

最も重要な炎症前駆物質は、IL-1とTNF-αです。活性化された好中球は、マトリックス分解酵素、フリーラジカルなどを産生し軟骨を破壊します。軟骨成分にヒアルロン酸も好中球により破壊されます(図3)。

骨髄から由来した、単核球系の幼弱な細胞が、顆粒球、肥満細胞、単球、マクロファージ、樹状細胞、破骨細胞に分化します。特にマクロファージは以下の表のように様々な炎症のメディエーターを分泌します。

■RAにおける炎症のメディエーター

炎症前駆物質 産生 標的 効果
TNF-α T-細胞、マクロファージ、滑膜細胞、顆粒球 マクロファージ、滑膜細胞、軟骨細胞、内皮細胞 蛋白分解酵素の産生、炎症性サイトカインの分泌
IL-1 マクロファージ、滑膜細胞 マクロファージ、滑膜細胞、軟骨細胞、内皮細胞 マトリックス合成阻害、滑膜増生
IL-6 T-細胞 B,Tリンパ球 B,Tリンパ球の増加、破骨細胞増加
IL-17 T-細胞 内皮細胞、マクロファージ、滑膜細胞 炎症前駆物質の産生、PGE2生成
免疫調整作用      
IL-2 Th1細胞(ヘルパー) B,Tリンパ球 リンパ球の増加
IFN-γ Th1細胞(ヘルパー) マクロファージ、滑膜細胞 組織適合性抗原の産生
TGF-β マクロファージ、滑膜細胞 B,Tリンパ球、軟骨細胞 Tリンパ球の増加
IL-15 マクロファージ Tリンパ球 Tリンパ球の増加
炎症細胞遊走      
MCP-1 マクロファージ、滑膜細胞 肥満細胞、単核球 炎症性細胞の遊走、集積
IL-8 マクロファージ、滑膜細胞 顆粒球、Tリンパ球 炎症性細胞の遊走、集積
RANTES Tリンパ球、滑膜細胞 単核球、Tリンパ球、樹状細胞、肥満細胞 炎症性細胞の遊走、集積
抗炎症作用      
IL-1RAP 単核球、マクロファージ、顆粒球 IL-1RAP IL-1シグナルの抑制
IL-4 Th2細胞 Bリンパ球、単球、マクロファージ 炎症前駆物質の産生抑制
IL-10 Th2細胞 Tリンパ球、マクロファージ 炎症前駆物質の産生抑制

■サイトカインのネットワーク

各種のサイトカインの中で、TNF-αはTリンパ球、Bリンパ球ともに活性化させ、炎症反応に大きく寄与しています。IL-1は活性化されたマクロファージより分泌されますが、軟骨を破壊するマトリックス分解酵素の産生にかかわっています。IL-1RAP(receptor antagonist protein)は、IL-1受容体レベルで拮抗し、IL-1の活性を抑えます。またIL-6もBリンパ球の活性に関与しており、RFの産生にかかわっています。

■ケモカインと接着分子

IL-8は好中球を関節滑膜に誘導します。そのほかMCP-1, RANTES(regulated on activation of normal T cell expressed and secreted)もTリンパ球などの集積に重要です。セレクチン、インテグリンなどの接着分子は、血管新生、パンヌスの軟骨への接着に重要な役割をはたしています。

関節破壊のメカニズム

■軟骨破壊

関節軟骨へのパンヌス浸潤がRAの特徴です。RAの滑膜は、未だ原因不明ですが、あたかも腫瘍細胞のように増殖します。RA滑膜より得られた線維芽細胞は通常と異なり、足場がなくても自由に増殖します。またアポトーシスも起こしづらくなります。RA関節液中には炎症性サイトカイン、IL-1β, TNF-α, IL-6, IL-8, GM-CSFなどが増加します。

RA滑膜は、軟骨のコラーゲン、プロテオグリカン、フィブロネクチンを破壊する、MMP、カテプシンなどを産生します。このようなマトリックス分解酵素は、TIMPにより非活性化されますが、相対的に分解の方が優位になり、軟骨破壊が進行します。また活性化された顆粒球より分泌されるフリーラジカルも軟骨破壊に寄与します。

■骨破壊

パンヌスは骨にも侵食します。パンヌスに含まれる細胞成分は、破骨細胞を活性化します。活性化された破骨細胞は、TRAP, カテプシンKなどの作用により骨を溶かします。破骨細胞の活性化には、RANKL(receptor activator nuclear factor-kappa beta ligand)が必要であり、抑制にはOPG(osteoprotegerin)が必要です。RAでは、RANKLが優位でOPGの作用が弱いことにより破骨細胞が活性化され骨破壊が進行します。

RAの薬物療法

■NSAID(非ステロイド系抗炎症薬)とステロイド

非ステロイド系抗炎症薬、NSAIDs(Nonsteroidal anti-inflammatory drugs)、はCOX-1, COX-2を阻害します。COX-1, COX-2ともにプロスタグランディンの生成に係わっています。NSAIDは関節の腫れ、炎症、充血、痛みに効果がありますが、副作用(消化管障害、腎障害、血液凝固障害)を引き起こします。COX-2選択的阻害薬はそのような副作用を軽減します。

ステロイドは、白血球の活性を抑制しRAに有効です。しかし、高用量で骨粗しょう症、高血圧、糖尿病、白内障などと合併症を引き起こします。一日10mg程度の低用量であれば副作用の発現が低くなるため、RA患者の30~60%で低用量ステロイドが使用されております。

■特徴的な抗リウマチ薬DMARDS

RAの病状を抑える様々な薬があり、DMARDs(Disease-modifying antirheumatic drugs)と呼ばれております。DMARDはNSAIDよりRAに効果的といわれております。メトトレキセートやレフルノミドはすでに金製剤などの古くからあるタイプを凌駕したと言えます。メトトレキセートの副作用である骨髄抑制、肝障害は葉酸の併用で著しく低下させることができます。

DMARDは単独で使用されますが、以下の述べるような生物学的製剤を併用することにより効果が一段と増します。生物学的製剤とは、炎症前駆性サイトカインの作用を中和するモノクローナル抗体、可溶性レセプター、あるいは受容体拮抗剤などのことです。

マウスとヒトとのキメラ抗体であるインフリキシマブ(抗TNF-α抗体)はその代表的製剤です。インフリキシマブとメトトレキセートの併用はRAに著しく有効です。可溶性レセプターは、細胞表面の受容体と拮抗作用により薬理効果を示します。しかしながら高濃度が必要、あるいは短い半減期などが問題でした。エタナーセプトはリコンビナントヒトTNF受容体であり、半減期が延長しました。エタナーセプトはRAの進行を抑えることがわかりました。最近IL-1RAPなども治験が進行しております。

■手術前の中断が必要な薬

RA患者の手術の前には、出血をきたしやすいような薬剤は中断しなければなりません。ワーファリン、ヘパリン、抗血小板薬は手術前5~10日前より中断します。鎮痛剤の一部には血小板凝集を抑制するものがあり、特にアスピリンは血小板に強く結合しその活性化を阻害するため、新しい血小板が作られる約7~10日前より休薬します。その他の鎮痛剤は数時間あるいは数日の休薬のみでよい場合があります。

RA薬には組織の治癒を阻害、また感染症を起こしやすくするものがあります。ステロイドはその代表です。ステロイドは休薬すると副腎皮質不全となることから継続使用します。メトトレキセートや生物学的製剤は、特に中止する必要はないといくつかの報告がありますが、合併症の発生に最大限注意を払う必要があります。

RAの手術療法

十分な薬物療法にもかかわらず、関節破壊が進行し、関節の変形、機能障害に至り、日常生活が制限されるRA患者も多くいます。全身の関節にRAの魔の手が伸びます。

軽度の場合、滑膜切除など簡単な手術で済む場合がありますが、重症例では人工関節置換術が有効です(図4)。

小林病院整形外科・リウマチ科では、薬物療法から手術まで、トータルに患者様を診断、治療させていただきます。

 

まとめ

RAは進行性の関節疾患であり、遺伝の関与と自己抗原提示作用があります。免疫関連細胞はサイトカインネットワークによりRAの発症、進行に関与しております。RAの炎症を抑える薬物としてTNF-αをターゲットとした新薬も利用できます。

また現在開発中あるいは臨床試験中の薬物も存在します。

 

リウマチ人工関節センター

 

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