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関節リウマチにおける新しい薬物療法

1.バイオ製剤

生物学的製剤とは化学的に合成したものではなく、生体が作る物質を薬物と使用するものです。現在日本で関節リウマチに使用できる生物学的製剤は8剤あります。そのうち腫瘍壊死因子(TNF)という分子と結合してその作用を抑制するものが5剤あり、インフリキシマブ、エタネルセプト、アダリムマブ、ゴリムマブ、セルトリズマブペゴ-ルで、それぞれレミケード、エンブレル、ヒュミラ、シンポニー、シムジアという商品名で使用されています。また、IL-6のレセプターに対する抗体製剤としては、トシリズマブ(アクテムラ)とサリルマブ(ケブザラ)が使用されています。

レミケードは、通常、メトトレキセートと併用することになっています。レミケード、ヒュミラ以外は、メトトレキセートなしで使用することもあります。また骨破壊の進行も止めることが分かっており、将来の関節の変形を予防できることが期待できます。一部の患者様で、リウマチの症状が改善した後で中止しても良い状態(寛解)が維持できる場合があり、ほぼ治癒に近い状態に導ける可能性もあります。投与方法は、点滴静注(2時間以上かかる)で、2回目は2週後、3回目はその4週後、4回目以降は8週毎になります。問題は、アレルギーが出やすいこと、抗体ができやすく、効果が薄れやすいことです。

エンブレルは皮下注射製剤で、週に1~2回皮下注射します。症例によっては、2週間に一回、あるいは月に1回投与の場合もあります。訓練して自己注射ができるようになれば、通院が少なくて済みます。レミケードと異なるもう一つの点は、メトトレキセートと必ずしも併用しなくてもよいことです。安全性が高く、高齢者にも使えます。

ヒュミラも皮下注射製剤ですが、エンブレルと異なり注射の頻度は2週間に1回となっています。エンブレルとの違いは、メトトレキセートと併用した方がより有効性は高いです。

シンポニーは、月一回の皮下注射です。注射の際の痛みが、エンブレルより少ないようです。メトトレキセートとの併用が必ずしも必要ではなく、通院回数が少ないメリットがあります。

シムジアは、2週間に一回の皮下注射です。炎症の場所に長く留まり効果を発揮すると言われています。最初に多くの量を注射することができ、早期に炎症反応を抑制することが期待できます。

アクテムラは点滴製剤で、1回の点滴時間は約1時間、4週間に1回点滴します。また、皮下注製剤も承認されており、通常2週間に1回の投与ですが、効果が不十分な場合には1週間まで投与間隔を短縮できるようになりました。ケブザラは皮下注製剤で、2週間に1回投与します。2剤とも、メトトレキセートとの併用は特に必要はありません。ケブザラは、発売されて日が浅く、当院でもまだ十分な観察ができていませんが、アクテムラと同等な効果が期待できます。

これら生物学的製剤にはいくつかの注意すべき副作用がありますが、特に重要なものは感染症とアレルギーです。中でも結核は重要で、ツベルクリン反応陽性など結核感染の既往があると思われる方は抗結核薬をのみながらこの治療を受けるべきとされています。これにより結核は防止できます。結核以外では、種々の病原体による肺炎が1~5%に起こります。咳や発熱などの症状があればすぐに整形外科外来(内線137)に連絡し胸部レントゲン撮影、胸部CTをするべきです。インフルエンザや肺炎球菌のワクチンはなるべく受ける方がよいと思います。アレルギー反応については、特にレミケードでは製剤中にマウスの蛋白を含みますので強いアレルギー反応が起こることがあります。これを抑えるためにレミケードではメトトレキセートを併用します。一方のエンブレルはヒトの蛋白でできているので、重篤なアレルギーは少ないと言われています。軽度の注射部位反応(注射部位が赤くなったりかゆみがでたりすること)がしばしば認められますが、通常抗アレルギー薬を併用するなどしてエンブレルを継続できます。ヒュミラについてもレミケードやエンブレルと同様の注意が必要と思われます。アクテムラも感染症とアレルギー(まれにアナフィラキシーという重篤なものもある)には他の製剤同様注意が必要です。それ以外ではIL-6を抑制するということから、他の3剤にはない有害事象がみられます。最も特徴的なものは血清コレステロール値の上昇です。これら生物学的製剤は、他の従来の抗リウマチ薬にあるような臓器障害(血球減少、肝障害、腎障害など)はほとんどなくその点ではむしろ安全ともいえます。

■アバタセプト(商品名:オレンシア)

2010年7月23日、関節リウマチ治療薬のアバタセプト(商品名:オレンシア)が製造承認を取得しました。適応は、関節リウマチ(既存治療で効果不十分な場合に限る)で、1回当たり500 mgから1 g(患者の体重によって異なる)を、初回投与後は2週目と4週目、以後は4週間ごとに点滴静注します。アバタセプトは、既存薬とは異なる新しい作用機序を有する生物学的製剤です。抗原提示細胞とT細胞間の共刺激シグナルを阻害し、関節リウマチの発症に関与するT細胞の活性化を抑制することから、「T細胞選択的共刺激調節薬」と呼ばれています。従来の生物学的製剤と比べ、より上流で作用するのが特徴で、その作用機序から、従来薬では十分に効果が得られなかった症例にも有効なのではないかと期待されています。実際に使用してみますと、安全性は高いのですが、肝心のリウマチ症状の抑制力が弱い印象です。そこで、当院では高齢者などの抵抗力が弱いと判断された症例に投与しています。また抗CCP抗体(リウマチに特徴的な自己抗体)の力価が高い症例にもよく用います。

■サリルマブ(商品名:ケブザラ)

ケブザラというお薬は、皮下注射型の関節リウマチの治療薬(ヒト型抗IL-6 受容体モノクローナル抗体製剤)であり、日本では、2018年2月に発売されました。通常、メトトレキセートなど既存治療で効果不十分な関節リウマチの治療に用いられます。ケブザラは、関節液中や血液中に過剰に存在している 「IL-6」 という物質の代わりに受容体にくっつくことで、IL-6 の働きを抑え、関節の腫れや痛みを改善し、関節破壊の進行を抑制することが期待されます。投与方法は、通常、成人は2週間隔で皮下に注射します。通常用量は200mgですが、患者さんの状態に応じて150mgを選択することがあります。主な副作用として、鼻咽頭炎、注射部位紅斑(注射した部位が赤くなる)、口内炎などが報告されています。このような症状に気づいたら、整形外科外来(0157-23-5171内線137)に相談してください。注意すべき重篤な副作用として、第一に感染症があげられます。血液検査所見上、感染症が起こっても、CRP値の上昇がみられないことから発見が遅れることが危惧されます。その他の注意すべき副作用として、白血球減少、肝機能障害、脂質検査異常、過敏症などが報告されています。

 

2.バイオシミラー

■バイオシミラーとは?

遺伝子組換え、細胞融合、細胞培養などのバイオテクノロジーを応用して製造されたタンパク質性医薬品であるバイオ医薬品(生物学的製剤)は、人体が自然に産生する分子と化学構造が似ています。これらは、多くの病気においても高い治療効果があると同時に,病気の診断にも役立っています。関節リウマチに対しては2003年から国内での使用が開始され、2016年11月現在8剤があります。バイオ医薬品の恩恵により,多くの患者がより健康的な生活を送ることができるようになってきています。これらバイオ医薬品の特許が切れた後に、別の会社が先行品(先行バイオ医薬品)と同等/同質の品質、有効性、安全性が確認され、先行バイオ医薬品と「類似」のものとして承認された医薬品を、バイオ後続品と言います。欧州では、生物を意味する「バイオbio」に、「類似の」を意味する「シミラーSimilar」をつけて、「バイオシミラー」(biosimilar products)と呼ばれ、現在日本においてもこれが一般的な呼称となっています。バイオシミラー(バイオ後続品)は、化学合成医薬品のいわゆる「後発医薬品(ジェネリック医薬品)」とは異なります。バイシミラーは、分子量が大きく構造が複雑であることから、化学合成医薬品と異なり、先行バイオ医薬品との有効成分が全く同じであるとはいえません。そのため、品質、安全性、有効性において、先行バイオ医薬品と同等、同質であるかの検証が求められます。

・先行品 一般的名称:インフリキシマブ(遺伝子組換え)製剤
・後続品 一般的名称:インフリキシマブ(遺伝子組換え)[インフリキシマブ後続1]製剤
・後続品 販 売 名: インフリキシマブBS点滴静注用100mg「あゆみ」 など

2014年11月に関節リウマチの治療薬として、国内で初めて承認されたバイオシミラーは、TNF-αの働きを阻害するインフリキシマブのバイオシミラーです。 インフリキシマブのバイオシミラーの効果は、先行品とほぼ同じであることは日本で行われた臨床試験で確認されています。投与方法は、先行品と同じです。バイオ医薬品は治療効果の高い薬ですが、医療費が高額となり患者さんの負担が大きくなります。治療を継続するために経済性に目を向けたとき、価格が先行バイオ医薬品の約70~77%であるバイオシミラーは、選択肢のひとつになります。バイオシミラーで治療ができるかは医療機関により異なります。詳細はリウマチ人工関節センター(内線137)に相談してください。

■当院では9種類の薬剤を使用しています。

インフリキシマブ (レミケード) 点滴 0,2,6週、以後4~8週毎
エタネルセプト (エンブレル) 皮下注射 ※自己注射可 週に1~2回
アダリムマブ (ヒュミラ) 皮下注射 ※自己注射可 2週間毎
トシリズマブ (アクテムラ) 皮下注射 ※自己注射可 2週間毎
点滴 4週間毎
アバタセプト (オレンシア) 皮下注射 ※自己注射可 1週間毎
点滴 0,2,4週、以後4週毎
ゴリムマブ (シンポニー) 皮下注射 4週毎
セルトリズマブ
ペゴル
(シムジア) 皮下注射 ※自己注射可 0,2,4週、以後2~4週毎
サリルマブ (ケブザラ) 皮下注射 2週間毎
バイオシミラー
インフリキシ
マブのジェネリック
(インフリキシマブ
BS「あゆみ」)
点滴 0,2,6週、以後4~8週毎

 

3.JAK阻害薬

■トファシチニブ(商品名:ゼルヤンツ)

ゼルヤンツは、2013年7月30日に発売された全く新しいタイプの関節リウマチ治療薬で、JAK(ヤヌスキナーゼ)阻害薬と呼ばれる経口の薬です。 関節リウマチでは、炎症が起きている関節にある炎症細胞にサイトカインという物質が、これらの細胞の表面にあるサイトカイン受容体を通して細胞に刺激が入り、その刺激は細胞内のシグナル伝達経路によって細胞の中心にある核まで伝わります。その結果、細胞は活性化して増殖し、自らも炎症を起こすサイトカインなどの物質をつくるようになります。現在、広く使われている生物学的製剤はTNFやIL‐6といった特定のサイトカインを細胞の外でブロックすることにより、細胞に炎症を起こす刺激が入らないようにします。これに対して、ゼルヤンツはサイトカイン受容体からの刺激を伝えるJAKという細胞内の酵素を阻害し、刺激が核に伝わるのを遮断して炎症を抑えます。 ゼルヤンツは、1回5mgを1日1回あるいは2回内服します。副作用は、感染症(結核、帯状疱疹、肺炎、敗血症)、肝臓の機能障害、ガン、貧血などがみられることがあり特に注意が必要とされています。従って、感染症を合併している患者さんや内臓機能が悪い患者さんなどには投与することができません。

■バリシチニブ (商品名:オルミエント)

オルミエントは2017年7月に国内で製造承認された経口の抗リウマチ薬で、トファシチニブ(商品名:ゼルヤンツ)に続く2番目のヤーヌスキナーゼ(JAK)阻害薬です。JAKという細胞内の酵素を抑えることで、関節リウマチで炎症や関節破壊を起こすサイトカインの働きを抑える作用があります。トファシチニブがJAKのうちJAK1,JAK2, JAK3を抑えるのに対して、バリシチニブはJAK1とJAK2を特に強く抑えるところが作用として異なる点です。通常はオルミエント錠4㎎を1日1回内服しますが、この薬剤は腎臓から排出されるため、腎臓の機能が低下している場合には1日1回2mgに減量する必要があり、また腎臓の機能が高度に低下している場合には使用することができません。 副作用としては、トファシチニブと同様に感染症、肝機能障害、白血球の減少、貧血、消化管の穿孔、などがみられることがあります。呼吸器感染症や帯状疱疹は重症になることがあるため特に注意が必要です。この薬剤の開始前には、現在および過去の肺炎やウイルス性肝炎などの感染症がないか、肝臓や腎臓の機能などについての検査を行います。

リウマチ人工関節センター

 

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