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肩腱板(かたけんばん)断裂の診断と治療

1.概説

肩の痛みの原因として、腱板(けんばん)損傷は非常に多く見られ、また治療の対象となる疾患です。

腱板は肩関節に安定性をもたらす、筋肉および腱の複合体(肩甲下筋(けんこうかきん)、棘上筋(きょくじょうきん)、棘下筋(きょくかきん)、小円筋(しょうえんきん))のことです(図1)。腱板損傷は炎症のような程度の軽いものから、断裂に至るまで広い範囲が含まれています。

腱板損傷は、明らかな外傷がなくても次第に発生してくることが多いですが、スポーツ中の怪我や交通事故などの外傷を契機に生じることがあります。
腱板損傷が発生しやすい理由は、肩関節の解剖を考えると理解できます。腱板はいわゆる球状関節の範疇に入る、肩甲上腕関節(けんこうじょうわんかんせつ)に安定性を与えています。肩関節の運動方向により様々なストレスが、腱板を構成する腱および筋肉に加わります。

腱板において最も損傷を受けやすい部位は、肩峰(けんぽう)の下にある肩峰下腔(けんぽうかくう)と呼ばれる狭い空間を通過しなければならない棘上筋腱です。肩峰下腔が狭くなって腱板損傷を引き起こす原因については、

●腱板炎(腱の炎症、腫脹)
●滑液包炎(滑液包―肩峰下腔においてクッションとなり、また腱板の動きを滑らかにするーの炎症と腫脹)
●肩峰あるいは鎖骨から下に向かって伸びる骨棘
●個人の肩峰の形の変異

などがあります。

肩峰下腔が狭くなればなるほど、腱板が挟まれるようになる、インピンジメント症状を起こします。そして腱板が骨に挟まれ擦られるほど、腱板は刺激され腫れるようになります。この悪循環が結果として、腱板を損傷することになります。この過程が繰り返されると、腱板の強度は低下し、そこに通常の力が加わることにより完全断裂を引き起こすことになります。

断裂は周りの筋に引っ張られ次第に大きくなります。特に高齢者の患者様では、腱の治癒能力が低下しており小さな断裂でも直りにくくなります。このような年齢とともに進行する、あるいは外傷による腱板損傷に加えて、野球選手に見られるような、激しい運動により引き起こされる腱板損傷も存在します。この障害は、過度の運動により肩関節を構成する靭帯が引き伸ばされ、緩くなることが原因です。

このように肩関節が緩くなったことを肩関節不安定症と呼びます。不安定症は腱板に加わるストレスを増大し、またインピンジメント症候群や腱板断裂を引き起こすことがあります。

2.診断

腱板炎あるいは腱板断裂ともに症状はほぼ同じです。よく見られるのが、肩の痛みと圧痛です。

また患者様の中には、筋力低下が明らかとなるまで医療機関にかからない方も見られます。整形外科医は、腱板断裂の診断に様々な方法を行います。

病歴の聴取、身体所見、単純X線写真、MRI(図2)、超音波検査などを行います。
小林病院では専門のスタッフによる優れたMRI撮像技術により、小さな腱板断裂でも診断が可能です。


図2:術前MRI(左)術後MRI(右)

3.治療

腱板炎や部分断裂の患者様では、手術をしないでも治癒することが多く見られます。治療は一般的に、消炎鎮痛剤の内服、理学療法、安静から成ります。ステロイドの局所注射も炎症を抑えるのに用いられます。

手術治療を決断する際、様々な方法があります。
滑液包炎の場合は、腱板が肩峰下を通過するのに妨げとなるような滑膜、肩峰は、関節鏡下肩峰下形成術を行います。腱板が50%以上切れている場合、腱板断端を上腕骨に縫合することがよく行われています。

腱板断裂の手術では、昔から大きな皮膚切開を加えて、三角筋を剥がして、肩峰下腔を狭くするような骨を切除(除圧)と腱板縫合(修復)が広く行われてきました。この手術は、組織へのダメージが大きく、術後の疼痛から長期のリハビリが必要なことが多く見られます。

近年、関節鏡を併用し、骨の除圧は関節鏡で行い、腱板の修復は小切開を加えて行う“ミニオープン”法も行われつつあります。

小林病院整形外科では、症例に応じて、骨の除圧から腱板修復まですべて関節鏡で行う技術を誇っています(図3)。当科では、平成20年には62例の腱板修復術をおこないました。これは術者1人あたりの手術数としては全国的にみても多いです。
図3:スコーピオンを用いた腱板修復術

腱板断裂修復術後の回復具合は、個人により多少の差がありますが、痛みの軽減、動き、力、機能の回復が最終的な目標です。

腱板を上腕骨に縫合した場合、腱と骨の癒合が得られるまで6週から8週の期間が必要です。その間、患部に負荷が加わらないようなリハビリを理学療法士と伴に行います。たいていの患者様は術後1~2週でかなり痛みが軽減します。しかしながら、リハビリの期間が長いため、正常な肩関節の機能を回復するまでには、約6ヵ月以上要することがあります。

小林病院整形外科では、腱板断裂修復術において95%以上の患者様で、良好な成功率を誇っています。全般的に小さな腱板断裂の方が、より良好な成績が得られますが、腱板の状態、筋肉の状態、リハビリのやり具合、意欲により成績も異なります。

4.石灰沈着性腱板炎(せっかいちんちゃくせいけんばんえん)

腱板損傷の患者様の一部には、石灰沈着性腱板炎を生じることがあります。沈着したカルシウムが腱板の圧を上昇させ、痛みを生じます。これはしばしば使いすぎにより生じます。石灰は吸収されるときに激しい痛みを生じるとも言われており、消炎鎮痛剤の使用が有効です。

しかしながら、長い経過を要するものでは、注射により石灰を吸引するあるいは、関節鏡で取り除くことがあります。幸い一般的に経過は良好で、再発は稀です。

スポーツ整形外科センター

 

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