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【川村エッセー:ときわぎ】地域医療の崩壊

2009年02月23日(月)

地域医療の崩壊を取り上げる報道が続いている。
地方の住人にとって、医療水準が大きく低下することは、大変不安なことである。
わたしがまずいなと感じるのは、「地域医療の崩壊」という言葉がさらに地域医療に対する人々の信頼を根本的に破壊してしまうのではないか?という点だ。

地域医療


従来、地方の良い点は、都市部では利害・損得が人間関係を仕切るのに対して、人間相互の信頼が不可欠かつ根源的に要請される点であった。
医療においても、たとえめざましい業績を示せなくても、目立たないけれど地域医療に必要な仕事をまじめにコツコツ積み上げ、信頼される医者が必ず存在していたはずだ。
地域全体でこれらを担う人々を大切な社会的財産として評価してあげたはずである。
わたしは、地域医療の崩壊の一番の問題は、患者―医者相互の根源的で濃厚な信頼関係が崩壊しつつあることではないかと考える。

この信頼関係を構築するため、医者にはかなりの努力が必要である。
わたしの大学の先輩であり尊敬する長野県厚生連富士見高原病院の井上憲昭院長は、数々の苦難を乗り越え、地域の中にあって、病気を予防し、病人に最善の医療を施し、障害を持つ人々や家族に出来る限りの援助を与える病院、身近にあっていざという時の安心感を与え、弱者である病人の声にいつも耳を傾け、地域の要望にいつでもこたえる事の出来る病院を実現している偉人である。
しかしながら、医者集めに駆け回り、介護職員にも十分な給与を支払うよう苦心されている。
そうした井上院長の影の苦労を地域住民は理解し、信頼するのだ。

地域医療の崩壊という言葉は、住民には地域医療が劣った、価値の低い存在として映るかもしれない。
大都市部の一部の医者が「勝ち組」であり、そうでない医者、特に地方の医者は「負け組」とみなされるのか。
医者の価値の大部分を決めるのは、患者さんに対する態度と振舞い方であるはずだ。
医療は、人間同士の信頼関係があって初めて成立するものであろう。
生きることは苦しみの連続であり、そのなかで少しでも人々の苦しみを和らげるのが医療であるはずだ。
地域において、しっかりとした患者―医者相互の信頼関係を築くことが、地域医療の将来像として求められることであろう。

北海道新聞 エッセー:ときわぎ 2009年2月23日掲載

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